テレビドラマが導いたIT業界への道
中学・高校と理系が得意だったこともあり、大学は数学&情報系の学科に進みました。そこには、実験などの課題が少なく、割と進級しやすいというやや不純な動機もありました(笑)。ところがいざ講義を受けてみると、数学はともかく情報系はさっぱりでした。プロミングは難しいし、将来どのように役に立つかのわからず、このときはIT業界で仕事をするイメージが浮かばなかったのです。そのうえ、PCを使ったデスクワークも気が進まず、結局、地元の千葉にあるカーディーラーに就職しました。
普段からクルマには乗ってはいましたが、特段詳しいわけではありませんでした。それでも、ディーラーで働き始めてからは国産の高級車のセールスを担当しました。社会的ステータスの高いお客さまが多かったため、仕事を通じていろいろ学ぶことは多かったと思います。特に仕事に不満があったわけではありませんが、1年ほど働いたころにターニングポイントが訪れたのです。
それは、当時何気なく見始めた「月9」のテレビドラマでした。舞台はバリバリのIT最前線で、若くして起業した社長が登場する物語です。とにかく(架空のドラマであることを差し引いても)アプリ開発1本で世界と戦う社長の野心がかっこいいし、仕事の会話やオフィスのインテリアなど、どれをとっても洒落ているのです。ドラマのストーリーに引き込まれていくうちに、大学時代の疑問やモヤモヤが晴れていき、ついには「ITの仕事に就きたい」と強く思うようになりました。
思い立ったらすぐに行動する性分ですので、早速IT業界に的を絞って転職活動を開始します。このときはITの領域が多岐にわたることを知らず、IT業界であればどこにでも飛び込んでやるという気持ちで臨みました。そこでご縁があって、NTTコムエンジニアリング(以下、コムエンジ)の内定をもらい、入社することになります。もちろん、当時はコムエンジが担うIT業界の領域について、ほとんどわかっていませんでした。
身を投じたITの世界で仕事の楽しさに目覚める
大きな夢を胸に抱いて飛び込んだITの世界でしたが、当然ながらドラマのように都合よく話は進みません。プログラムを書いて、何かのシステム開発に携わるのではと思っていたのですが、配属されたのはネットワークの故障対応を行うフロントでした。そこで、オペレーターとして働くことになります。最初は「あれっ? こんなはずではなかった」という心境でしたが、足を踏み入れた以上は精一杯頑張ろうと腹をくくりました。
仕事を覚え、現場になじんでくると、ルーターなどのコマンドを打つ際に「おっ!これってIT感あるな」と思うことが多々ありました。そういった小さな楽しみを見出しながら、日々の業務に打ち込むようになります。
オペレーターの仕事を1年ほど経験したころ、業務改善に向けた新しい施策を提案する仕事を任せられました。最初はエクセルの簡単なマクロを組んだのですが、作ったものが業務に役立ち、現場のみんなに使ってもらうというのは、初めての体験でした。まさに私のイメージしていたIT業界の達成感がそこにあり、日々の仕事が「あれっ?こんなはずでは」といった感じから、「何だか楽しい!」にシフトしました。楽しみを覚えたからには突き進むのみで、新たな業務改善施策への挑戦を決意します。
2018年夏の西日本豪雨災害では、土砂災害などでケーブルが2本切断され、大規模なネットワーク故障が発生。私の所属するTOCスーパーフロントには、お客さまからの問い合わせが殺到しました。しかし当時は影響が及ぶ回線の抽出や検知に3日ほどかかり、その間はお客さまに情報を出せない状況が続きます。原因は複数システムにデータが分散し、加えて複数の担当者が手作業で“バケツリレー”をするようなアナログなプロセスだったため、時間がかかってしまうのです。
この課題を解決するべく、お客さまから電話がかかってくる前に状況を知らせる仕組みをつくる「Athena(アテナ)プロジェクト」が始動しました。これはITシステムから生成されるデータをリアルタイムに収集、可視化、分析できる「Splunk(スプランク)」というプラットフォームをベースに、束故障(災害などによる大規模な故障)通知の高速化を図るというものでした。
現場にいる少人数のメンバーと知恵を出し合い、試行錯誤を重ねて、「Athena」を完成させ、稼働させました。影響回線の抽出やお客さまへのメール通知がボタン操作でできるため、平均45分を要していた故障検知・通知のオペレーションが最短5分で対応できるようになりました。この取り組みが評価され、「2019年KAIZENサミット」でCDO賞、コムエンジ社長賞を受賞。内製で短期間につくり上げた苦労が報われたので、最高の達成感が得られました。気分はドラマの主人公そのものでした(笑)。
「まずやってみる」姿勢で不可能を可能にする
「未来ワーキング」のメンバーに加われた理由は、おそらく「Athenaプロジェクト」の成果が大きかったと思います。参加して最初に感じたことは「すごいメンバーがたくさんいるな」というものでした。皆さん広い視野を持ち、ユニークなアイデアがどんどん出てくるのです。そんなメンバーたちに刺激を受けています。
「Athena」で解決したのは現場の局所的な課題ですが、実はコムエンジ全体にも同様の課題が存在します。組織の縦割り構造により、システムのサイロ化が進み、組織をまたぐデータ連携が難しい。それが、DXの妨げになっているのです。目下、未来ワーキングでは開通からSO、保守までの全社情報を横断的にリアルタイムで連携する仕組みづくりに取り組んでいます。まだ完成までには時間がかかるかもしれませんが、2021年度内には何らかの結果を出す計画です。
未来ワーキングの取り組みとも関わってくるのですが、現在、TOC自体を“改善のショーケース”とするために、担当している故障対応の改善を広くかつ深く推進しています。そうして現場が推進しているDXを全社的にアピールし、適用領域をコムエンジ全体に広げ、いずれはパッケージ化して国内外に広く販売していくという野望を抱いています。
もちろん故障対応に限らず、会社の収益を上げるチームの一員として、面白いものづくりにもどんどん関わっていきたいです。私の座右の銘は、岡本太郎の「なんでもいいからやってみる。それだけなんだよ」。IT業界ではスピード感を優先するアジャイル開発が主流になっていますが、これは仕事に向き合う姿勢としてもふさわしいと感じています。そのスピード感や思い切りが、仕事に対する“楽しさ”の源にもなっています。
OFF TIME
子どもと一緒に遊ぶために、庭付きの家に引っ越しました。とはいえ、庭をきれいに維持するのは結構大変で、芝刈りが日課になり、それが次第に楽しくなり、いまでは頻繁にやるようになりました。AIを実装するエンジニアを目指して、E資格の勉強もしています。と、一応真面目な話もしておきます(笑)。
PROFILE
秦 慶和
2014年、NTTコムエンジニアリングに入社。TOCスーパーフロントでのオペレーター勤務を経て、3年目からは現職の支援担当に。効率化・改善施策の検討、開発、導入に携わる現場改善のプロフェッショナル。「考える前にまず動く」というフットワークの軽さを身上としている。