ITの重要拠点には未知の世界が広がっていた
大学は法学部で根っからの文系です。卒業後、金融系の企業を経て、IT系企業で国際協力を担う特殊法人のプロジェクトに参加したことがIT関連のキャリアのスタートとなりました。その後、IP-VPNの構築、サポートなどを手掛けるようになり、さらなるキャリアアップのために新たな転職先を探し始めました。私は茨城県在住ですので常磐線沿線の職場を当たっていたところ、ご縁がありNTTコム エンジニアリング(以下、コムエンジ)の北茨城LSに勤務することになりました。気持ちは常磐線を都心に向けて南下するイメージでしたが、結果的に北上することになってしまったのは少々想定外でしたが(笑)。
ランディングステーション(LS)は陸揚局とも呼ばれ、海底を渡って世界をつないでいる国際海底ケーブルを陸に引き上げる拠点です。海から伸びてくるケーブルを収容し、国内のユーザーに向けて無数の光回線ケーブルを割り当てていきます。ITの仕事は経験していたものの、レイヤーの異なる物理層、いわゆるインフラは未体験の領域でした。光回線ケーブルを物理的に抜き差しする回線開通・廃止の作業では、たとえ1本でも抜き間違えれば大変なことになります。そのため、入社同時つねに緊張感を維持しながら仕事に挑む必要があると感じたことを覚えています。
すでに勤務して5年が過ぎました。日々、管理業務を担当する大手町の拠点をはじめとした各所と密に連絡を取り、協力しながらアジア向け、北米向け、2つの国際海底ケーブルの保守業務に携わっています。これまで4度のケーブル故障を経験しましたが、故障発生時はLS内の空気が一変し、慌ただしくなります。北茨城は少人数体制で回しているのですが、長い場合は2週間、24時間体制で対応に当たる必要があります。人が常駐する状況をつくりつつ、メンバーが疲弊しないようやりくりするのは大変です。ときには他のLSに応援を要請して、逆境をうまく乗り切ることがステーションマネージャーの腕の見せどころです。
海を、国境を越えて喜びを分かちあう瞬間
海外のLSやケーブル修理船などとのやりとりでは英語が標準語になります。とはいえ手順書があり、ステップに沿った定型的な作業のため、通常の勤務で高度な英語力が求められることはありません。しかし、これが会議となると話は別です。昨年、大阪で開催された国際海底ケーブルの国際会合にオブザーバーとして出席しました。英語で進行する会議内容は理解できたのですが、その場で瞬時に文章を組み立てないと発言ができないことを痛感し、あらためて英語力の研さんに努めるようになりました。このような学びの機会は最大限に生かすようにしています。もともと経験ゼロの素人として入社した経緯もあり、現場では上下に関係なくお互いが勉強しながら仕事を回していくことが多いと感じています。
ちなみにケーブル故障の対応時には、想定外の事態が生じることもあります。たとえばケーブルの修理が終わり、止めていた電気をケーブルに流すときに装置からモクモクと煙が噴き出したこともあります。焦げ臭いと感じ、即座に装置を止めて予備の装置に切り替えて事なきを得たのですが、非常事態での焦り、急ぐ気持ちが強いときにこそミスは起こるものです。こういう状況にこそ平常心で、的確な判断と、一つひとつの手順を確実、慎重に対応することを強く心がけるようにしています。
おそらく、大半の方と同様、この仕事に就くまでLSや国際海底ケーブルの存在を意識したことはありませんでした。しかし、現場の責任者になったいまは役割の重さを痛感しています。たった1本のケーブルが故障するだけで、インタースロットゲームのトラフィックが大きく乱れ、ビジネスや生活に甚大な損害、被害が生じます。それだけに迅速に復旧作業が完了した際の達成感は大きく、国内はもとより国境を越えたアメリカ、中国の関係者たちと喜びを共有する瞬間にこの仕事のやりがいを感じています。
信頼を築き、チーム全体の絆を深める未来を描く
先ほど、LSの作業にはきちんとした手順書があるとお話ししましたが、従来の手順に甘えてルーティーンで続けているようでは意味がありません。つねに手順を磨き上げ、効率的を図りつつ事故率をゼロに近づける改善を重ねていくことがLSの使命です。私は部下からの改善に関する提案を、まずはすべて受け入れることにしています。どんな提案であっても、まずは試してみて、改善点を話し合い、より良いものとして採用するようにしています。少人数体制で回っているLSにおいては人間関係が重要です。少しでも関係が悪くなればミスにつながります。それだけに上司、部下に関係なく風通しのいい意見交換のできる場をつくるように心がけています。
上司と部下の関係はLSに限ったことではなく、コムエンジ全体についても同様です。働いてみて感じたことは幹部や上司との距離が近いことです。社長、幹部の方がLSを訪れる機会も少なくありません。しかも、会社全体で役職名を呼ばない「さん」付けが定着し、フランクに上司と意見交換できる空気感があり、悩んでいること、困っていることを気軽に相談でき、解決できる環境があると思います。誰にでも等しく活躍のチャンスがあり、キャリアプランに沿った成長ができるのではないでしょうか。
最近、コロナの影響でリモートワークの機会が増え、コミュニケーションの機会が減りました。直近の課題はリモート会議などで信頼関係を深め、チームワークを維持していくことです。一方、リモート会議をうまく使いこなせば、北茨城にいても、志摩、新丸山といった他のLSの仕事ができる可能性があります。映像でお互いの作業を見せ合うことで、手順を磨き上げることもできるはずです。私たちの仕事は「つながって当たり前」という保守であり、めったにスポットライトが当たることはありません。それでも重要なインフラを支える責任のもと、日々の仕事に誇り、充実感を持てる職場でありたいと考えています。
もう少し長いスパンでの目標は国際海底ケーブルを企画、管理、建設する多様なプレイヤーに対して、LSの視点から積極的にアプローチを行い、チーム全体の強化に貢献することです。だからこそ、これまでも、これからも正直でありたい。つねに誰に対しても正直であり続けることを、とても大事にしています。
OFF TIME
北茨城周辺にはゴルフ場が多く、LSに来てからゴルフを始めました。いつの日かエイジシュートを目指しています。スポーツ観戦が好きで、地元Jリーグチームを応援しています。スポーツは自分でするのも好きで、年一回くらいですが、フルマラソンやトレイルランの大会にも出場しています。
PROFILE
太田 一直
2015年にNTTコムエンジニアリングに入社。国際海底ケーブルを見守る最前線、北茨城LS(ランディングステーション)のステーションマネージャーとして、さまざまな海外、国内の拠点と緊密に連携しながら保守業務に携わっている。少人数体制で日々の業務を回すために、積極的なコミュニケーションによる以心伝心のチームワークづくりに励む。