通信基盤の品質を支える現地調整の腕を磨く
北海道出身で、子どものころの週末は、冬はスキー、夏は釣り漬けでした。また工作が得意で、プラモデルを作ったり、模型ラジコンを組立てて走らせたり、機械いじりも好きでした。その流れから工業高校の電気科、大学の電気工学科に進みます。卒論で取り組んだ光通信の変調方式に興味を持ったことがきっかけで、卒業後は情報通信関連の会社に就職します。
初めての仕事は、国内メーカーの陸上・海底の伝送装置に関する現地調整でした。装置を設置した後に、検証・試験を行う業務です。海外のお客さまを担当していたため、スリランカ、インド、タイ、韓国などを訪問しました。その中には、大変な案件もありました。
印象深いのは、インドのプネーとハイデラバード間600㎞をつなぐプロジェクトです。もともと別チームが担当していたのですが、進捗状況が悪く、打開策として自分を含む新たなチームがアサインされました。14の局舎に伝送装置を設置するのですが、設置・電源工事で3週間、現地調整・試験で1週間、計1カ月で完了させるという非常にタイトなミッションでした。工事担当の頑張りで、設置は3週間で完了。そこから、局舎を回って現地調整を行いました。移動中に事故に遭うわ、お腹は壊すわで、最悪の状況。それでも何とか納期通りにプロジェクトを完遂したときには、思わずガッツポーズが出ましたね。
その後、結婚を機に国内のお客さまをメインに担当するようになり、取引先の外資系メーカーに転職。国内大手キャリアに納めた伝送装置をはじめとする、技術サポートを担当します。驚いたのは、国内キャリアの品質の高さです。特にNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)のサービス品質は群を抜いていました。日増しに高品質なサービスを維持する仕事に携わりたい、さまざまメーカーの装置にも触れたいという思いが募り、NTT Comの運用保守を担うNTTコムエンジニアリング(以下、コムエンジ)に入社しました。
世界的イベントの映像配信を成功に導く
ネットワークの階層で言うと、レイヤ0(設備層)、レイヤ1(物理層)の経験はありましたが、入社後は未経験のレイヤ2(データリンク層)も手掛けることになります。さらにメディアコンバーターを扱うのも初めてで、NTT Comの高品質なサービスを支える監視フレーム「Ethernet OAM」の存在を知らず、ゼロから勉強したのもコムエンジだからこそ習熟できる貴重な経験です。持ち前の探求心も相まって、新たな技術や知識を貪欲に吸収していくことで、少しずつ仕事を回せるようになりました。
コムエンジに入社してからは、伝送装置に関わる検証業務を行っています。検証業務でいちばん重要なことは、実際の商用サービスと設定値を合わせることです。設定値が異なっては検証の意味がなくなるため、いかにして担当者にそれを聞き出すかが鍵となります。担当者に問い合わせても不明確なケースが多いため、粘り強く何度も話をして情報を引き出し、正確な設定値を詰めてから検証に入るようにしています。
いまの仕事のやりがいは、検証を担当するNTT Comの商用ネットワークサービスの安定稼働を実感するときです。なかなか機会はないのですが、たとえば年間アワードなどで担当するサービスの品質が1位を受賞するとうれしいですね。検証業務は縁の下の力持ちのポジションですが、検証業務の精度の高さが、サービス品質の向上につながることは言うまでもありません。日本国内の暮らしやビジネスに欠かせない高品質な社会インフラを支えている自負を持ち、日々、責任感を持って仕事にあたっています。
2021年に開催された東京五輪の映像配信に業務で関わったことも、忘れられない思い出です。開催の数年前から映像機器を現場に持ち込み、NTT Comの伝送装置をつないで検証環境を構築したのですが、立ち上がりから苦労の連続でした。例の設定値がなかなか詰められず、何とか情報を引き出して検証を開始したものの、今度は通信がつながりません。現場で培ってきた切り分けのノウハウを生かし、映像機器の設定の間違いを早期に突き止めることができたため、スケジュール通りに検証を終えられました。
ほぼ無観客で開催された東京五輪では、国内外に配信される映像が大きな役割を担いました。自宅で中継を見て、アスリートに声援を送り、メダルに歓喜した方も多いと思います。世界的なイベントの映像品質向上に少なからず貢献できたことには、誇りを持っています。
育成とともに自身を磨き上げる“伝送装置のスペシャリスト”
現在はNTT Comの各種通信機器の検証機があるNTT中央研修センタ内で、検証設備に関する物品管理、検証業務、検証環境構築、装置研修講師業務などを担当するチームを率いています。前職では個人商店のような感じだったのですが、コムエンジに入り、チーム単位で仕事をするようになり、次第にチームを統括する立ち位置になっていきました。今後は新入社員、若手社員の育成に重点を置き、コムエンジ全体の技術力を大きく底上げすることを目指しています。
私の強みは、伝送装置の検証業務の指標となる国際規格値を把握していることです。こうした知見やスキルを、若いスタッフたちに伝承していく責任があります。もちろん伝送装置についても熟知しており、求められればいくらでもアドバイスしますし、とことん議論もしたいと思っています。検証装置は実際の商用サービスで運用している装置ではないため、極端な話、壊さなければどんな操作をしてもいいのです。探求心を持って挑戦し、成長を続けるプレーイングマネージャーとして、多くの後進を育成し、コムエンジの検証レベルを引き上げる礎になりたいと考えています。
とは言え、まだまだ自身のスキルアップにも貪欲です。いずれレイヤ3(ネットワーク層)の領域にも踏み込みたいと考えていますし、NTT Comがドコモグループになったことで、モバイル系の伝送装置の検証にもチャレンジしたいですね。いまなお、新しい技術をキャッチアップする探求心が尽きることはありません。私の座右の銘は「好きこそ物の上手なれ」。子どものころの機械いじりから始まり、好きなことを追求してきた結果、いまに至ります。今後も、とことん現場に関わっていきたいと思います。なぜなら、いまなお伝送装置に触れている瞬間がいちばん幸せですから(笑)。
OFF TIME
上京してから、スキーに行く頻度は減りましたね。ここ2年、週末はもっぱら九十九里浜でヒラメ釣りです。かなり足繁く通っているのですが、これまでの釣果は合計で4、5枚。ほぼ毎回ボウズですが、わずかな可能性に賭けて通っています。仕事柄、ルアーの色を変えるような検証は頻繁にしていますね(笑)。
PROFILE
真鍋 賢一
真鍋 賢一(まなべ けんいち)/伝送装置のスペシャリスト
2014年、NTTコムエンジニアリングに入社。長年、国内外の現場で積み上げてきたノウハウを生かし、商用サービスの伝送装置に関する検証業務の第一線で活躍。現場にこだわるプレーイングマネージャーとして後進を育成する一方、自身のスキルアップにも余念がない。検証業務が楽しくて仕方ない、根っからのエンジニアだ。